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「軍人さん……ほら、お屋敷が見えてきましたぜ」
肩を御者に軽く揺さぶられ、シャインは閉じていたまぶたを開いた。
目の前に茂る林の緑の影から、瑠璃のように輝く青い屋根の母屋が見えた。
個人の家としては大きいが、邸宅の部類から見ればこじんまりとした建物だ。
馬車は林を抜け、背の高い鉄の門扉で閉じられた玄関前で止まった。
シャインは乗車代を支払うと、馬車から下りてしばし感慨深げに、屋敷を眺めた。
実家に帰ってきたのはかれこれ六年ぶりだ。
十四才で海軍の士官学校へ入れられて、それを機に家を出たのだ。
と、右手奥の通用門が、ガチャリと音を立てて開くのが見えた。
そこから真っ白な白髪を首の後ろで一つに結んだ、六十代ぐらいの執事が出てきた。銀縁の丸い眼鏡をかけ、髪と同じくらい白い口ひげを生やしている。
体つきはふくよかだが、その立ち振る舞いは洗練されており、すこしも無駄な動きがない。
背筋をぴんと正し、こちらをみる表情はやわらかく、とても品があった。
だがシャインと目が合った途端、老執事の顔は驚きに変わった。
息を飲んで大きく身を震わせている。
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