3-3 想いはエルシャンローズと共に

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 ◇◇◇  十四才までの記憶では、もっと広い庭のような気がしていた。  花も自分の背丈よりずっと高くて、うっそうとした感じだった気がする。  けれど現在のローズ園は、専属の庭師が手入れしているせいか、おとぎ話に出てくるような美しい庭になっていた。  アスラトルでエルシャンローズの隠れた名所、といわれるようになったのは、その花の見事さもあるが、品種の多さも要因しているのだろう。  従来種の青から白のグラデーションを描いた大輪の花はもとより、赤や紫、薄い黄色などの花をつける亜種もたくさん咲き乱れているのだ。  あたりは楚々とした花の香りに包まれていた。  シャインは従来種の花の株に近付くと、その場に屈んで右足のブーツの口に手を入れた。そこからいつも隠し持っている銀色の細剣を取り出す。  これほど見事な花だ。  無断で手折れば、アドビスは烈火のごとく怒るかもしれない……。  そう思ったのは、花の茎に刃を入れる一瞬の間だけだった。
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