3-4 声にならない言葉

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 グラヴェール岬。  家名で呼ばれる岬の先には、一本のまっすぐな幹をした大きな木が生えている。  どんな種類かは知らないが、その樹齢は百五十年、いや、それ以上だと、アドビスが語っていたのを思い出す。  木は潮風に葉を傷めることもなく、青々と茂って地に影を落としていた。  顔を上げたシャインは、ふとその傍らで佇む人影を見つけ、思わず足を止めた。  隣の木に負けない程、すらっと伸びた背の高い黒服の男……。  後ろ姿でも、威風堂々とした気迫が感じられる。  シャインは立ちつくし、戻るべきか一瞬考えた。  だがその間が、シャインに選択すら与えられない結果を招いた。  黒服の男が、振り返ったのだ。  未だ色褪せず金色の獅子のように潮風に髪をなびかせた、アドビス・グラヴェールが。  シャインは唇を噛みしめ、苦々しくその顔を見つめた。  そして、意を決して再び歩き出した。
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