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「……なんだと?」
アドビスの指の力が、ふっとゆるめられた。
解放されたシャインは、大樹の幹に手をついて空気を求める為に大きく喘ぐ。
その様子をじっとアドビスは見下ろしていたが、やがてシャインに背を向けつぶやいた。
「帰れ。ここで、あのひとの魂が憩うことはないのだ。だから……」
シャインは右手で首をさすりながら、うなだれるアドビスの背中を見た。
そそり立つ壁のような彼が、驚く程小さくなった気がした。
「二度と此処へ来るな。来れば……その時は望み通りにしてやる」
アドビスはずっと水平線を眺めていた。
先程の彼の言葉からして、この件に関してもう話す気はないという、意思表示の現れだろう。シャインは黙ったまま踵を返し、振り返ることなくその場から立ち去った。
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