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ぐっと手を握りしめるジャーヴィスを意識しながら、シャインは肩で扉を押し広げ、ようやくサロンから出た。
とたん硝煙の臭いが鼻に付いて、のどがいがらっぽくなる。息も苦しい。船内の天井につりさげられていたランプの灯りは消えていて辺りは真っ暗だ。
けれど甲板へ出るための階段は、目の前にあることをシャインは覚えていた。
薄くたちこめる煙と闇に目は慣れてきたし、見つけるのは容易かった。
青白い月明かりに照らされたそれは、気力が萎えてしまうほど急勾配で、シャインは流れてきた汗に目をしばたいた。
だがここを上がらなくては甲板に出る事ができない。
「ジャーヴィス、もう少しだけ辛抱してくれ」
木が燃えるような臭いと煙に咳き込みつつ、シャインはジャーヴィスの体を自分の背中に回した。
だらりと垂れてきた冷たい両手をしっかりと握る。
人一人が通る幅しかない階段をあがるには、こうするしかない。
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