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「お母さん、藍染の浴衣あったやろ? 花火大会にあれ着て行こうかな。藍にもあったやろ? わたしが小さい時の」 藍染が好きで、娘の名前を藍にした。 藍は自分の名前の由来でもある藍染を、夏休みの宿題に選んだ。 里帰りの口実は、忙しい夫にはどうでも良かったかもしれない。 それでも無いよりはあった方が気が楽だった。 「後で探しといたげるわ。晩御飯作るけん、ちょっと裏の畑行てきゅうりやなすびとってきといて」 久しぶりに帰ってきても人使いの荒いことに変わりはない。 それが母なりの気を使わせない気遣いなのかもしれない。 「藍、畑行くでー」 呼べば、少し大きなゴム草履を履いて藍が庭に降りてきた。 竹のザルに並んだ新鮮な野菜を井戸水で簡単に洗い流していると、ポツリポツリと雨が降り始めた。 今夜から明日の朝にかけて台風が通過するらしい。 毎年何回かは台風が通る。 幾たびもの嵐にも、この古い母屋は耐え抜いてきた。 「藍、雨降ってきたから二階の窓閉めてきて」 何年か前は急な傾斜の階段を怖がっていたのに、もうすっかり危なげなく階段を上がっていく。 「ママ! 見て見て! 四国三郎がこっちまで来そう!」 実家は川の近くに建っている。二階に上がれば堤防が見えるが、普段は水の流れまでは見えない。 驚いて見に行けば、増水した川が水位を増して轟々と流れていた。     
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