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母
本当は口にするのが怖かった。
何の気なしに言ったように装ってみたけれど、多分母にはお見通しなのだろう。
「あんたが辛抱しとらんとは思っとらんよ。わたしが近くにおったら藍のことも手伝うてあげられるけど。
あんたが頑張っとる分、藍も良い子に育っとるやない。頑張ったら頑張っただけあるでよ」
頑張れ頑張れって、いつまで?
わたしだけ頑張ってるん不公平やない?
涙が出そうになって目が痛い。
「ほんでも帰ってきたかったらいつでも帰ってきたらええ。あんたが苦しんでたら藍も辛いやろ?」
ほれ、と口に押し込まれた桃の香りに、ついに涙腺が決壊した。
『帰れる実家があって羨ましい』
友人の美貴が言っていたのを思い出した。美貴は婿養子を貰って実家住まいだ。
『たまにやってみたくなる時あるんよ。実家に帰らせていただきます!って。でもわたしの実家はここやもん。逃げて帰るとこないんよ。ずっと頑張っとかんといかん』
美貴の母は美貴が小さい頃に家を出ていない。家事も子育ても介護も全部美貴がやっている。わたしには真似できそうにない。
『なんで女性ばっかり家事と子育てに追われるんやろう。仕事は男女平等って法律作っても、家事は男女平等にならん!』
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