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大事に守っていくものもある。
わたしは何を守っていけばいいのだろう。
台風は一夜にして過ぎ去り、次の日は快晴となった。
藍を連れて藍染体験のできる観光施設を訪れた。藍の夏休みの宿題のためでもあるが、わたし自身、数年ぶりに藍染をやってみたくなった。
わたしはハンカチ、藍は小さなハンドタオルを受付で購入し、工房へと進めば独特の香りに迎えられる。
以前ここへ来たのは結婚式の前だった。広樹と二人でお揃いのTシャツを染めたのだ。あの時は何のわだかまりもなく笑いあえた。何が変わったのだろう。
きっと変わったのではなく、いろんな感情がわたしの上に降り積もって見えなくなってしまったのだ。日々の生活に追われて振り払えなくなった澱で、あの時の気持ちはくすんでしまっている。
工房で説明を受けながら真っ白なハンカチを藍液に浸けていく。一分ほどでゆっくりと液から出して空気に晒す。
大きな甕の中は発酵した藍の深い深い深海の色。
そこに浮かぶ藍の華はコバルト色の泡。
引き上げた白い布は黄色から緑へと変わる。
それを数回繰り返すと、徐々に濃い碧に染まっていく。
軽く絞って流水で濯げば、鮮やかな青が現れた。
胸がすっとすくような鮮やかな青。
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