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だから驚いた。
国道の歩道を登ってくだって左に曲がると、トンネルが見える。その向こうにある、行きつけの青いコンビニ。
ペットフードのコーナーにやたらとスタイルのいい男がいた。白Tに水色のパーカー、下は高校のジャージ。薄茶色の髪を隠すみたいにパーカーのフードをかぶっている。シンプルな服装なのに妙に印象に残る。まさに人に見られるために生まれてきたような男だ。
ちょっとまて。
……高校のジャージ?
あれどう見てもおれたちの高校の、だろ? しかもあの横顔。あの耳の形。おれがいつも廊下から見ているのと同じ、だぞ?
ちょっとまて。ちょっとまて。ちょっとまて。嘘だろう。
おさまっていた鼓動がばくつきだす。なんだこれ。どうしていま……。よりによっていま、こんなところでこいつに?
「……カムパネルラ?」
あっ。
しまった。
声が出てしまった。うっかりと。
不審そうに佐原がこっちを見ているじゃないか。おれのばか。ばかやろう。なんて言い訳をするんだ。
だけど佐原は無視するでもなく、パーカーのフードをおろして、おれの目をじっと覗き込むようにしてきた。そして何も言えず固まっているおれをみて、ふわりと笑った。
舞台の時より親しみやすい、カムパネルラの笑顔だ。
「……ごめん。もしかして、うちの学校のひと?」
イケメンの笑顔は人を幸せにする。
そんな格言を広辞苑にでものせておくべきだ。たとえ存在さえ知られてなくても、おれは間違いなく幸せになった。なってしまっていた。
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