カムパネルラは二度微笑む。

5/5
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
だから驚いた。 国道の歩道を登ってくだって左に曲がると、トンネルが見える。その向こうにある、行きつけの青いコンビニ。 ペットフードのコーナーにやたらとスタイルのいい男がいた。白Tに水色のパーカー、下は高校のジャージ。薄茶色の髪を隠すみたいにパーカーのフードをかぶっている。シンプルな服装なのに妙に印象に残る。まさに人に見られるために生まれてきたような男だ。 ちょっとまて。 ……高校のジャージ? あれどう見てもおれたちの高校の、だろ? しかもあの横顔。あの耳の形。おれがいつも廊下から見ているのと同じ、だぞ? ちょっとまて。ちょっとまて。ちょっとまて。嘘だろう。 おさまっていた鼓動がばくつきだす。なんだこれ。どうしていま……。よりによっていま、こんなところでこいつに? 「……カムパネルラ?」 あっ。 しまった。 声が出てしまった。うっかりと。 不審そうに佐原がこっちを見ているじゃないか。おれのばか。ばかやろう。なんて言い訳をするんだ。 だけど佐原は無視するでもなく、パーカーのフードをおろして、おれの目をじっと覗き込むようにしてきた。そして何も言えず固まっているおれをみて、ふわりと笑った。 舞台の時より親しみやすい、カムパネルラの笑顔だ。 「……ごめん。もしかして、うちの学校のひと?」 イケメンの笑顔は人を幸せにする。 そんな格言を広辞苑にでものせておくべきだ。たとえ存在さえ知られてなくても、おれは間違いなく幸せになった。なってしまっていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!