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『ぼくはもう、君と、いっしょには行けないんだ』
絞りだすような彼の掠れた声に、おれの胸までひきつる。プロでもなんでもない、たかが文化祭の舞台に、こんなにも惹き付けられるなんて。
『さようなら、ジョバンニ』
下手から吹き込んだ風が、大人びた彼の髪をそよがせる。悲しみを隠して、口角をあげる姿が闇の中に消えていく。待ってくれと叫びそうになった。
『……カムパネルラ?』
ひとり取り残されたジョバンニにスポットライトがあたる。あたりは闇。光がだんだん小さくなる。飲まれていく。
『カムパネルラ? カムパネルラ? どこ? どこなの?』
鼻をすする音がやけに近い。と思ったらおれだった。まさか演劇を見て泣くことになるなんて。どんだけ必死に見てたんだ。おれは。
『カムパネルラ。ぼくは……っ、ぼくは、きみが、好きだァーっ!』
魂をしぼり出すような絶叫。まるでおれ自身が叫んでる気さえした。
光が途切れ、暗転。
カーテンコールで、カムパネルラが姿をあらわすと、ひときわ大きい拍手が起こった。
『ありがとうございました!』
爽やかに頭を下げる長身の影。
カムパネルラ。
佐原 省吾。
それから約一年。
文化祭で一躍人気者になった男と、まさか今日、こんなところで会うとは思わなくて、ごくりと唾を飲んでその横顔を見つめた。
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