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知らん顔をするのに気付いた玄十郎が代わりにそっちを見ると、みすぼらしいなりの小柄な男が店に入ってきた。
年の頃は30ばかりであろう。目をしょぼしょぼさせた、口元のだらしない男である。
一見すると百姓のようだが、玄十郎が不審に思ったことがある。夏の盛りだというのに、顔は大して日焼けしていないのだ。
……ということは、日中、外に出ていないのだ。
稲の実るころであるが、田の草や虫を取るなど、収穫を前にやることは山のようにあるはずだった。玄十郎は武士ではあったが、一揆の鎮圧にあたっていた父親から、その暮らしについては聞かされていた。
決して楽ではない、働くために働いているような苦しい毎日である。それでも稲を植え、水を灌漑し、収穫の時を迎えることだけが彼らの喜びなのだった。
父親が立ち向かっていた一揆は、それを傷つけられることへの抵抗だったように思えた。難しい年貢のことは分からなかったが、取られる米の多い少ないよりも、自分たちのささやかな喜びに思いが致されないことへの憤りのような気がしたのである。
だが、色の生白いこの百姓がそんな気持ちを抱えているとは、とても思えなかった。
なづきが近寄ってきて、吐き捨てるように言った。
「あれが才平ですよ」
玄十郎は半ば呆れ、半ば落胆して溜息をついた。
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