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「そもそも、私の家と本條くんのとでは方角が違うと思うんだが。君、商店街のほうだったよね」
「あれっ、そうなの??」
まさかの情報に、どおりで登下校イベントが発生しなかったわけだと妙に納得する。知っていれば、こんなに勇気の必要な誘いなんてしなかったものを。
「ちょおーっと、よろしいかしら?」
傍観していた神楽が、髪をさらりと流して話に割り込んでくる。「実はこの子、商店街に用事があるのよ」と手のひらで茨戸を指し示した。
「ユリっ、それは――」
「わたしは急に用事ができたからご一緒できないの。せっかくのお誘いなんだし、本條くんとパン屋デートしてらっしゃい」
商店街のパン屋? まさか、な。
「デートって! 違うよ、麻生くんと葛西くんも一緒――」
「そんなはずないわ。だって炭酸コンビ、小田先生に呼び出されてたもの」
「そ……そうなの?」
思わぬ援護を受け、緊張の糸がゆるむ。それが事実かは分からないが、旧校舎の屋上で親指を立てているバカ2人を混ぜて帰るつもりは毛頭ないので、テキトーに話を合わせる。
「うん。委員会の用事があるとかでアイツらは居ないよ」
「ほらーぁ。なら、立派なデートでしょ」
シレッと神楽に強調されて、一緒に帰るだけのはずが、そんな事態になったことを自覚した。
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