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 2ヶ月後のこと。母が倒れたと聞いて、慌てて病院に駆けつけた日だった。  空も地面も、赤くなった手にかかる息も、全てが白かった。そんな白さも忘れてしまうぐらい、電話に出た母の声は明るかった。  『過労だったみたい~。母さん少し働きすぎだって、お医者様に言われちゃった』  すっとんきょうな声色に私は思わず腰を抜かすところだった。  「どんだけ車走らせたと思ってんの! 滑って対向車に当たりそうになるし……。病院着いちゃったから、とりあえず向かう」  病院に入り携帯の設定を済ませてエレベーターを待っていると、後ろから小さく「あ……」と呟く声が聞こえた。  振り返るとそこには。  ――あ……。  綺麗なユリが目に映える浴衣、ポニーテールを彩る真紅の薔薇のようなコサージュ。季節に似合わない服装は病院内で浮いている。成人式に着て行くと答えた女性だった。  目には真珠のように光る滴を溜めて、寒さに震える体を押さえて一礼した。  「すみません……成人式に着て行くなんて嘘……」  「え、あ……いえいえ! 嘘なんて誰でもつきますし……」  フォローにならなかっただろうか。彼女の瞳から切り離された滴は、小さな結晶のように頬へと流れる。ギョっと驚いてハンカチを渡すと、彼女はまた苦笑した。少しだけ触れた手がヒンヤリ冷たい。  「母さんに振袖姿を見せたかったんですけど……意識が朦朧としているから、これを振袖だって嘘ついてもバレないんじゃないかって……」  「え……」  「母さん、あと3日もしないで死ぬと思います」  ――あどけない少女のようだ。  二十歳を過ぎた私と、二十歳にまだ届かない彼女。  二十歳に届かない彼女は、こんなにも私の目に幼く映る。  流す涙は少女そのものだ。  「大丈夫ですよ」  優しく、穏やかな口調で語りかける。  「ちゃんと振袖に見えます」  幼い表情とは裏腹に、派手で麗しい浴衣は少し背伸びしたコーデに見えた。  「綺麗ですよ」  とても振袖には見えない、大人びた服装。横顔も涙の筋が残る少女。  そして私は。  「……ありがとうございます」  淡く微笑んだ彼女は先にエレベーターへ乗って消えてしまった。  そして私は。  そして私は、  ――そして、私は、  ――こう嘘をつくしかなかった。  そう自分でも思う。
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