第一章

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一人の商人が夜道を歩いていた。 彼はとある薬屋の雇われ人で、名を春若(はるわか)といった。春若はお得意様にいつもと同じ飲み薬を運んだ帰りであった。 その日は幸い満月の夜で、頼りない提灯の明かりの他に月明かりが差し込んでいた。暗い場所が苦手な春若は、拓けた川沿いの道を選び、月明かりを頼りに歩いた。 対岸は問屋が多く、川にはたくさんの小船が浮かんでいる。春若の目指す薬屋は、目の前にある橋を渡った先にある。これ以上帰りが遅くなって旦那様に怒られてはたまったもんじゃないと、春若は先を急いだ。 橋の上からは、川に映る美しい満月を見ることが出来るだろう。 少しくらい眺めていても罰は当たらないだろうと、春若は手荷物をそっと置いて欄干に身を乗り出した。
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