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第二章
次の満月の晩、春若は再び急ぎ薬屋を目指していた。
今日はお得意様の屋敷の近くで火事があり、どうしても取り引きに手間取ったのだ。屋敷で話し込んでいた春若は、しばらくの間待ちぼうけをくらっていた。
江戸は火事が多く、仕事先で巻き込まれるのはこれで三度目となる。取り引きに時間がかかるだけならまだしも、火事の混乱に巻き込まれた春若はさすがに疲れきっていた。
今日はどこにも寄らないで真っすぐ戻ろう。そう思っていたはずなのに、春若の足は動きを止めた。
やはり、この前の女が気になったのだ。
――どれくらい待っていたのだろうか。
いくら待っても姿を現さぬ女に、春若は半ば失望していた。そもそも満月の夜に都合よくあの女が現れるわけがないのだから。
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