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一章:哲学の魔法少女
Ⅰ.
白、白、白。
天井、壁、床、そのどれも白い此処は兵器開発と実験施設とを兼ねた巨大研究所である。
物心がついたときには、ワタシは此処で来る日も来る日も薬を投与され、膨大な数の書物を読まされて今日まで育った。
しかし、そんな生活も今日で終わりのようだ。
「被検体千三百六番」
ワタシを呼ぶ、抑揚のない声。
此処の研究者に与えられた本から視線を外して顔を上げると、目の前にはワタシを見下ろす灰色の髪の男性が立っていた。
「明朝より、貴様には国王の補佐役として各国の要人との会談に出席し、我が国にとって有益になるよう事を運べ。良いな?」
「了解しました」
素直に頷くワタシに気を良くしたらしい。
男性は僅かに口端を吊り上げて「そういえば」と続けた。
「貴様には名がないそうだな」
名。
嗚呼、個体を識別するためのモノだろうか。
ワタシに与えられた数字の羅列もまた識別する役割を持っているため、ワタシは否定の意を込め首を横に振る。
「いいえ、ワタシの名前は千三百六番です。先程、アナタがワタシをそうお呼びになったではありませんか」
「それはあくまでも番号であり、名とは言えない。――メーティス、これからはそう名乗るが良い」
メーティスとはギリシア神話に登場する知性の女神の名のはず。
「この世のあらゆる知識や言語を喰らった哲学兵器――否、神童に似合いの名であろう?」
男性はどこか愉快そうに笑って、ワタシの手を引いた。
その手はワタシよりも大きく、温かかった。
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