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Ⅲ.
ロンディヴィル王国の隣、リランスビア国ルベ戦線。
「ワタシとしたことが……己の不甲斐無さに腹が立つ。……ん?」
敵の罠に掛かり、捕らえられてしまったため救助を待っていたワタシは、味方の軍の頭上に突如現れたアレを視認すると目を見開いた。
白亜の翼、頭上に浮かぶ紅い茨の輪、右足首の黒い足枷。
アレは、そう、ワタシの記憶が正しければ。
「古代兵器、トリルビィ……」
間違いない。
だけどアレは創世神話に登場する、所謂空想の産物であって……現存していたなんてどの書物にも書いていなかった。
いや、仮に書いてあったとしてもこうして目の当たりにするまでは半信半疑だっただろう。
「トリルビィ、起動。殲滅対象、リランスベアの兵士及び、哲学兵器、メーティス」
「……え?」
今、アレは何と言った?
「あんなに戦って、貢献したのに。何故?」
嫌な汗が額を伝う。
……怖い。怖い、怖い、怖いやだどうして!
麻痺していた心がじわじわと感覚を取り戻し、悲鳴を上げる。
「やだ、やだやだ死にたくない怖い……嗚呼、嗚呼!憎い憎い恨めしい殺してやりたいッ!」
堰を切ったように感情の洪水が口から吐き出されていく。
まだ、ワタシにも人らしさは残っていたのね、なんて。
冷静なワタシが脳内で苦笑した気がした。
気がしただけで、冷静なワタシなんてどこにもいなかったのかもしれない。
「お願い、ワタシ……私を殺さないでぇ!」
『――敵の手に落ちたメーティスの物語は、裏切られて、終幕』
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