第一冠 天成

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 少年と入れ違うようにしてやってきた茶色い髪の大男が少女に声を掛ける。姿から察するに、彼も地図書きの一人だ。 「分かってる分かってる。…少年とはここへ来る前からの付き合いだったな。ヘル。」 「そうですよ先生!前は分からないことがあれば私に色々聞いてくれたのに…、最近はめっきりなんです…。」  ヘルと言う名の少女は深いため息をつき、ロビー中央の壊れた噴水の縁に腰を下ろす。それから不満げに足をばたつかせ、少年との出会いの思い出を愚痴るように語り始めた。 *  少女と初めて出会った時、ユクは記憶喪失だった。彼は自分が何者なのか、どうしてここに居るのかさえ分からないまま、ただひたすら、ガタクタの山の隙間から八つの天蓋に覆われた灰色の空をじっと見上げていた。彼は人間らしい姿形をして、人間らしいそれなりの心を持っていたが、それでもどこか人間らしくない異様な冷静さがあった。少女はそれがユクの性格なのだと思い、初めのうちはまったく気にしていなかったが、それでも親しくなるうちにだんだんと違和感を感じるようになった。  研ぎ澄まされた冷静さと正確性で、ユクは『地上館』へ来るなりすぐさま一級の地図書きに昇進したが、ヘルは未だ見習いの三級止まり。スタート地点は同じだったのに、その差を思い知る度に彼女はなんだか悔しくなった。 *     
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