第一冠 天成

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 地図書きの道具を背負い、ユクは変動の起きた西区三層へと足を運ぶ。日々変化する地形に翻弄されながらも、この西区大通りのマーケットは毎週必ず開かれる。街の住民達は今日見る景色が明日変わろうとも、気にせず今を生きているのだ。 「……。」  ユクは以前の地図と見比べて変化のあった個所を地図に記しながら、追加された路地や消えた路地などを無表情で新しい地図に書き記していく。一見何も考えていないように思える彼だが、彼女の誘いを断ってまでここへやって来たのにはそれなりの理由があった。  大通りを抜けた先。幾つもの建造物が積み重なったガラクタの上。倒壊した建物のアーチの隙間から上層の景色が見える場所。そう、ここは記憶喪失のユクがヘルと出会った始まりの場所だ。辺りの地形は変わっても、この開けた空間はそれほど変化していない。ガラクタの山の頂に立った彼は、「何故空を見上げていたのか。」と、人間らしく悩みながら、あの時と同じ灰色の空を見上げ始めた。  滅却都市ゲヒノム。その空を塞ぐようにして並ぶ八つの天蓋。かつてゲヒノムでは多くの人々が天蓋の先を目指そうと試み、ガラクタを用いて幾つもの塔が建設された。しかし建設の途中で塔が崩壊し、多くの犠牲を払ったことから人々は空を目指すのを諦め、とうとう彼らは辺獄に居座り続ける事を選んだのだ。 「悲しいな。」     
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