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住民の誰もが思わない事を、彼は口にした。外へ出ることを諦めた住民達に、何も知らない彼は同情した。ユクはこの面倒な都市に長居したいとは思わない。機会があるのなら、今すぐここから抜け出したい。そう彼は思っている。
「ユク!やーっぱりここに居た!」
少年を呼ぶヘルの声。少年はどうして君がここに居るのかと尋ねようとしたが、少女は彼が言うよりも先にその理由をべらべらと説明し始めた。
「えへへっ!先生に頼んで特別に場所を変えてもらっちゃった!これで昔みたいに一緒にマッピングが出来るね!」
少年の手を握って嬉しそうに話すヘル。しかし少年は相変わらずの無関心で、あろうことかこんな事をド直球に呟いた。
「嬉しいの?」
「は、はぁ?別に嬉しいとかじゃ無いけど…。ただ、何となく…。ユクが心配だったから来ただけ!」
「俺は心配いらないよ。」
ヘルの心配をよそに、無表情のユクは答える。二人の噛み合わない会話は初めて出会った時からずっとこんな調子だった。
二人で奥の路地を探索し始めると、ユクは以前マッピングした時には存在しなかった新しい建物への入り口を見つけた。おそらく他の建造物に覆い潰されていた部分が前日の変動によって姿を現したのだろう。二人は建物の入り口の地図に書き記してから、手元のランプを照らして未知の建物の内部へと入っていった。
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