第一冠 天成

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 埋まった建物の中にあるものは、大抵が古くなっていたり、腐ったりしていて使い物にならないゴミが殆どだ。新しいものが欲しいのであれば天蓋に最も近い第一層を探索すればいいだけの話なので、こんな場所は余程の物好きか地図書き以外は足を踏み入れない。 「何これ…?すごい…!」  建物に入ると、早速ヘルが驚いた。外観では分からなかったが、この建物の壁や床は鉄よりも固い未知の素材が使われており、各所には人の動きを検知して点灯する照明までもが備わっていた。彼女はこれが自分たちの使う魔術と同じ原理で機能している事までは理解出来ていたが、どうしてこんな事が出来るのか不思議で堪らなかった。  その後もヘルは未知の魔術に惹かれながらも、相変わらずの冷静さでマッピングを続けるユクの後を追った。建物の内部には硬く閉ざされた扉がいくつも並んでいたが、どんな道具を使ってもそれらを開けることは出来なかった。 「何かいる。」  立ち止まり、薄暗い通路の様子を伺うユク。後ろにいたヘルも身を乗り出して通路の先を覗いてみたが、奥に何かが居る気配はない。 「何もいないけど…?」 「なら、気のせいか。」  またしても無関心な素振りを見せるユク。警戒を解いて一歩足を踏み出すと、突然何の前触れもなく足元の床がガシャンと音を立てて落下し始め、ユクの足元にはあっという間に底の見えない大穴が出来上がってしまった。     
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