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ヘルの声が、大穴に虚しくこだました。
*
「……。」
鉄臭い赤色のシミで塗りたくられた大広間。中央には人間であったモノの残骸が山のように積み重なっており、その山の片隅にユクは落ちていた。
ユクは辺りの様子を伺い、その場から立ち上がろうとしたが、足を動かそうとする度に折れた足が痛み、その場から動く事もままならなかった。
「………。」
それからユクは、大広間の奥の扉からこちらへと歩み寄ってくる黒い鎧の騎士の姿を見た。真っ黒な剣を振るい、真っ黒な兜から赤色の単眼を光らせるその騎士は、ずいぶん前にヘルから読み聞かされた死神の姿そのもので、そいつはまるでユクを死骸の山の一部へと還さんとばかりに剣を構え、虎視眈々と彼の首を狙っていた。
だが、ユクはここで大人しく死ぬわけにはいかないと思った。上で待つヘルに、泣いていたヘルに。生きている自分の姿を見てほしい。だからまだ、死ねない。
足は折れたが、幸いにも腕はまだ動く。このまま這いつくばって進めば、あの死骸の山の頂に手が届く。決心を固めたユクは黒い騎士に背を向け、歯を食いしばって悲鳴を堪えながら、足を引きずって懸命に体を動かした。
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