第一冠 天成

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 死骸に手が届けば、ユクはそれを掴み上げて黒い騎士に投げつけた。周囲に落ちているものがあれば、それが何であろうと手当たり次第に投げつけた。そうして彼が見境なく掘り出していく度に死骸の山には徐々に深い溝が開いてゆき、気付けばそこには一人分の屍を葬るに丁度いい墓穴が掘られていた。  ユクは自ら墓穴を掘る愚かさを、無言で立ち尽くす黒い騎士に笑われたような気がした。だからこそ、無言で人を殺そうとするコイツを最後に一度だけ見返してやりたいと思った。  何でもいい。立ち向かう為の力が欲しい。そう願う彼の手に、さび付いた剣の柄が触れた。死骸の山の底に埋もれていた剣。悪あがきの墓穴を掘り続けたからこそ、彼はようやくこの剣の存在に気付く事が出来たのだ。 「……俺は。」  ユクは剣の柄を握り、居もしない神に祈りを捧げた。  まだまだ戦える。まだまだ見返せる。一瞬だけでいい。せめて黒い騎士が剣を振り下ろすよりも先に、この剣を持ち上げる事が出来れば。一撃でも攻撃を逸らす事が出来れば。その一瞬だけは奴に対して勝ち誇れる。 「……俺は、戦う。」  ユクは剣を持ち上げる勢いで素早く黒い騎士の方へと体の向きを変え、振り下ろされる黒剣をさび付いた剣の刃で強引に受け止めた。二つの剣の刃は激しく火花を散らし、その圧倒的な熱量でさび付いた剣の刀身は徐々に赤く融解してゆく。衝撃でユクの体は大きくのけ反ったが、それでも彼の剣は黒い騎士の剣に食らい付いたきり少しも離れようとはしない。     
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