21人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「こんちはー、充くん」
深夜の一時をまわった頃、汚れた作業着のおじさんがニコニコしながら自動ドアをくぐって来た。彼は一週間に一、二回は来てくれる常連だ。
「いらっしゃい小日向さん」
身なりはイカツイが顔貌はけっこう丸い。小太りの小日向さんはいつも嬉々として僕が作ったケーキを眺める。
「いやー、今日も美味そうだね」
「ありがとう」
「今度ミルクレープ作ってくれよ、俺アレ好きなんだよ」
「えー、面倒くさいんだよアレ」
「菓子作りってそもそも面倒くさいんじゃないのか」
小日向さんは朗らかに笑いながらモンブランと夏ミカンのショートケーキを選んだ。彼はいつも二つ買って帰る。奥さんと食べるらしい。
「しかし助かるよ、俺仕事この時間までだから中々ケーキ買えなくてさ」
「奥さんに買ってもらえば」
「選びたいじゃないか」
五十路のおっさんが10代20代の女子みたいなことを言う。
最初のコメントを投稿しよう!