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芽里ちゃんは弾くように顔を上げた。そしてばつが悪そうに俯いて答える。
「ごめんなさい……」
「別に謝ることじゃないよ、僕が用意してなかっただけなんだから」
「あらら、残念だったねぇ」
「はい……でもどれも美味しそうだから他のケーキを買って帰ります」
シュンとしょげた顔、昼間に来た子なら残念でしたで済むのだけれど。
「……それってどんなケーキ? 気になるな」
「え……?」
芽里ちゃんは質問を続ける僕を不思議そうに見つめる。
「多分、君は普段こんな夜中に外を出歩くような子じゃないだろう? 髪も洋服もきちんとしてるし、不良にしては礼儀正し過ぎるんだよね。わからないけど、昼間にもケーキ屋さんに行って欲しいケーキを探してたんじゃないかい?」
彼女はしばし逡巡した後、コクリと頷いた。
「はい……。今日は、いえもう昨日だけど、お父さんの命日だったんです。だからお母さんと一緒に、お父さんが好きだったケーキを食べようと思って」
「お父さん亡くなってたのかい?」
「はい……交通事故で、おととし」
僕達にはかけられる言葉が見つからなかった。……まだ甘えたい盛りだろうに。
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