それはトップがカラメルで

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「お父さんが生きてた頃は横浜に住んでて、そこのケーキ屋さんにはあったんです」 「あぁ、横浜なら有名店があるもんね。それかもしれない」 僕も製菓学校時代に二、三回作ったきりだ。 「芽里ちゃん、もう少し起きてられるかい?」 「はい……?」 特殊な材料はない。開店前に作って寝かせておいたスポンジもある。だから今から作るのは不可能ではない。 「今から作ってあげる。そのかわり高いよ?」 「ちょっと、その間店どうするんだ?」 小日向さんが口を挟む。ちょうどいいので僕は彼に僕のエプロンの替えを渡した。 「小日向さん見ててよ。多分キャバクラ帰りのお姉さんくらいしか来ないから」 「全く……女房にどやされそうだな」 文句を言いながらも、小日向さんはエプロンを着て店のカウンター側に入って来てくれた。 「助かるよ。あ、洗面所そこね」 小日向さんが洗面所に行って入念に手を洗い始める。 「あとで『金盗った』とか言わねーよな?」 「僕を見下さないでよ」 笑いながら言うと小日向さんは綺麗な親指を立てた。 「安座上くんも、一緒に店番しててよ。ケーキつまみ食いしないでね」 「わかってますよ」 安座上くんも快く小日向さんの隣に腰を下ろした。 「あ、芽里ちゃん。作るの手伝ってくれるかな? それでちょっとまけてあげる」 「い、いいんですか……?」 「お願いしたいんだ。ドボシュ・トルタって作るの大変なんだよ」 なんせ五層も六層もスポンジとクリームを交互に重ねないといけないから。 「……うん!」 彼女が一瞬見せた素の笑顔は、ケーキ二十円分割引くらいの価値があった。
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