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「あの、お怒りはもっともですがね、お母さん。ちょっとその辺にしてあげて、芽里ちゃんが持ってるケーキを見てみて?」
小日向さんが気遣わしげに目を釣り上げているお母さんに声をかける。
「ケーキ? ……これが何か」
安座上さんも調子を合わせて言った。
「ご主人が好きなケーキだったんでしょう? これを探して夜な夜な旅に出たそうで」
お母さんは眼鏡をかけ直して目を凝らす。
「これ……ドボシュ・トルタ?」
このケーキの名前を見ただけで言える人なんて、滅多にいない。
「名前ご存知だったんですね。知らずに食べてる人も多いのですが」
「はい……主人は記念日の度にこれを買ってきてたんです。大好きだったみたいで」
懐かしい、と彼女は毒気を抜かれた顔で目を細めた。
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