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 地獄はここだ。  いいや、地獄の方がまだマシだ。  だってそうだろう。  話に聞く地獄の獄卒は、俺たちを責め苛んでも、その仕事を押しつけは決してしない。仕事を押しつけて帰ってしまった上司のように、上司のように!  ここはよくあるブラック企業。俺はよくいる社畜という生物だった。ブヒブヒ。  あーあ、罪人が羨ましい。  ずっと座り続けて青いディスプレイを睨んでいると、このままミイラになってしまうのではないか、と思ったが、伸びが出来た。感動した! 刺激が少ないと、人間こんなことで感動出来る。というか、ただ単に変なテンションなだけだった。  そのノリのまんま、窓辺に寄って夜空を見上げてみた。サボってる? ハハハ、イカすジョークじゃないか。私は一向に構わんッ! 何を? お叱りをだよ、チクショウ。  俺はため息をついて星を探す。いつぶりかの夜空は、やっぱり相変わらずで、星が少ないとのんきに嘆いていた、上京したての頃と同じだった。  たいして星見えねぇ。  ひときわ明るい星がシリウスだとは分かるが、かろうじて冬の大三角を見つけた以上の収穫はなかった。というか、冬の大三角で、今が冬だと意識したことの方が驚きだった。季節感も忘れていた。空調の整えられた室温はいつでも変わらず、それに最近の空調はあんまりにも静かだ。四季の移りなんぞ、置いてけぼりにされるだけ。  星も数えきれるんじゃないのかと思って、一つ一つ数えてみた。危ない人だとは分かっているが、止められない、止まらない。そうしているうちに、ふと思った。  あの星の一つ一つは、夜空という株式会社の窓なのではないのか。  その向こうには俺のようなサービス残業の会社員がいて、俺のようにこちらを見上げているのだ(いや、見下ろしている、か?)。きっと上司にこき使われて、憤慨しているのだ。俺のように、俺のように! 大事なことだから四回言ったって構わないだろう。俺のように! ほら五回目。その先はもう数えない。  俺は自分の思いつきに楽しくなっていた。楽しくなって、ケキョケキョと笑いもする。  しかし、納得のいかないこともある。
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