本文

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 田舎の故郷で見た星空よりも、残業している奴らが少ないぢゃないか。 どうやら向こうは、都会に行くほど労働条件がいいらしい。  けしからん! たるんどる! より多くの業務を命じてやる。  なんてーー俺は上司のように言ってみる。俺の言葉に返してくれる奴は誰もいない。その愉快さに、たまらずフハッと鼻から息を吐く。  と、窓の外に奇妙なものを見つけた。  何だこれ、と目を凝らす。  それはオフィスの明かりに照らされて、か細く儚く揺れていた。  すごく……、紐……です……。  念のため言っておけば、窓に映った俺のことじゃあない。ヒモだったらそもそもこんなところでサービス残業などしているわけがない。だからと言って、俺がヒモを養っているわけでもない。  という俺のヒモじゃない理論はどうでもよい。  もう一度見ても、やっぱりそれは紐のようだった。上を見ても、開かない窓の角度では、その先は見えない。  どうしようか、と俺はパソコンをチラリと見る。  返事がない。ただのパソコンのようだ。ただしまだ仕事は終わっていない。  返事がないなら仕方ない。俺は、その紐の探索に出ることにした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!