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「答えが出てるなら、返事してやりなさい。先生になんか構ってないで」
「だって、郁ちゃんが……」
「先生、だろ」
「……先生が、あんなこというから」
「あんなこと?」
「自分が好きな相手に言われて傷つくような断り方はするな、とか言うから」
室見はふてくされた顔でため息を吐いた。
「それ考えたら、好きな人から断られたらどう言われても傷つくから、なんも言えないよ」
意外と真面目な答えが帰ってきて、郁は目を丸くした。
「なんだよ先生、意外そうな顔して……俺だってちゃんと考えてるよ。藤原ってどんなやつか知らなかったから、同じクラスのやつに聞いたりしたし」
「そうか。それなら、先生がとやかく言うことじゃなかったな」
「……いや、言ってよ……」
室見は廊下の壁に寄りかかって、つまらなそうに下を向く。そして、床に置いてあった新しく掲示する理科の実験ポスターを広げて郁に渡した。
「最初にも言ったけど、そういうことについては、先生に相談されてもたいしたアドバイスはしてあげられないよ」
「だから、そうじゃなくて」
室見が差し出したポスターを脚立の上で受け取って、郁は首をかしげて室見を見た。
「運命の番が他の誰かに取られちゃうかもしれないんだから、もうちょっとさ……嫉妬してくれてもいいんじゃないの?」
「……?」
室見が何を言っているのかピンと来ずに、郁はポスターを画鋲で留める作業を続ける。
他の誰かに取られちゃう……? 室見が、藤原に取られる、という意味だろうか? だがもとから室見は自分の所有物ではないのだが……?
「あー、もー! 先生鈍すぎ!」
室見は焦れったそうに、大声でわめいた。
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