教科書通りの恋を教えて

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「……先生が鈍いのって、理系のせいだからなのかな……」  大声を出した自分が急に恥ずかしくなったのか、室見は真っ赤な顔を隠すようにしゃがみこんで、膝の上に乗せた腕に顔をつけて呟く。 「理系が関係あるかはわからないけど、恋の相談を受けたのは初めてだし、常識的なことしか言ってやれない……ごめんな」  脚立から下りて、肩を落としている室見の肩をポンと叩いて励まそうと思ったが、郁は伸ばしかけた手を引いた。  室見との接触は、極力避けなければならなかった。室見と視線をぴたりと合わせたり、触れたりすると、身体に変調をきたすような予感がする。もしもこれが自分がオメガであるせいなのだとしたら、教師失格だ。けれど、室見以外の生徒に対してはアルファであっても誰一人としてそんな感覚を抱かないので、逆に言えば室見さえやり過ごしてしまえれば問題なく教師を続けられる。だから他の生徒ならば肩を叩いて励ましてやれるところを、室見に対しては言葉だけで伝える。少し申し訳ない気持ちになりながらも、郁はうずくまる室見を眺めていることしかできなかった。 「おーい」  その時、よく通るはっきりとした声がして、室見も郁も声の方を見た。学校のロゴが入ったTシャツとジャージを着た西条が、のんびりと階段をおりてきたところだった。学校ではいつもこのようなラフな格好だが、背が高く、短髪を軽く立たせてセットしている西条は、さりげなく洒落ていて、相貌もくっきりとしており格好良い。見目よく、優しくスマート。西条は生徒からも絶大な人気を集めている。
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