教科書通りの恋を教えて

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「郁、明日の午後教育委員会で会議だろ? 資料間に合いそうか?」 「たぶん。井上先生に指示貰って作るだけだから、大丈夫だよ。間に合わせる」 「俺会議代わってもいいけど」 「西条先生だって授業の準備あるだろ。大丈夫だよ」  西条は同期のよしみで何かと郁を気にして、こうして声をかけてくれた。郁と同じく今年入った新任教員だというのに、西条は素晴らしく要領が良い。周囲からは「何年目だっけ?」と勘違いされるほどだった。郁は時々西条のことが先輩のように思えてしまい、同期なのだと思い出しては、自分もしっかりしなければと奮い立っていた。 「西条先生」 「おわっ! なんだ、室見。睨むなよ」  郁と西条のやり取りを黙って見ていた室見が、立ちはだかるように二人の間に入って話を遮った。 「西条先生のクラスの藤原に、ストーカーされて困ってるんでどうにかしてもらえませんか?」 「え、なに? ストーカー?」  室見の言葉に、西条も郁も驚いた。郁が室見から相談されていた内容は藤原から告白された、というものだけで、ストーカーをされているという話は聞いていなかった。 「それ本当なのか? どんなことされてるんだ?」 「これ。無言電話とか、下駄箱に毎日手紙とか」  スマホの画面には、夕方から深夜にかけてフジワラと書かれた着信履歴が三件、五件、八件と日を追うごとに増えているのが表示されていた。 「手紙は最初の方のしか読んでないけど、好きっていっぱい書いてあったり、番にしろって書いてあったり」 「室見と藤原は付き合ってたりするのか?」 「ぜんぜん。藤原から告白はされたけど、どう言って断ろうかと悩んでたら無言電話が始まった」 「そうか……。わかった。困ってるんだな? ひとまず室見のことは伏せて、俺から藤原に話を聞いてみるよ」  西条は顎に手をあてて、思案顔でそう答えた。 「室見、悪かった。そんなことになってるなんて……。先生の最初のアドバイスは的はずれだったと思う」  室見はムッとした顔のまま郁に向き直ると、そうだよ、と郁の言葉を肯定した。 「俺が先生にして欲しかったのは、アドバイスじゃなくて、ヤキモチなの! そういう、鈍いところもかわいいんだけどさぁ……」  はー、とため息を吐いた室見と、困った顔の郁を交互に見て、西条は、ん? と何かひらめいた顔をする。 「室見お前、明科先生はダメだぞ」
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