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西条は室見からの相談を受けて、翌日には藤原と話をしたとのことだった。藤原は告白の返事を貰えないことに焦れて、室見への行動をエスカレートさせてしまったのだと泣きながら話したという。
「すごいな、西条先生」
今後はそういうことはしないと藤原と約束までしたと聞いて、西条の手際の良さに郁は心底感心した。
「いや、案外難しい話でもなさそうだったよ。藤原はストーカーしてる認識はなくて、言われて気づいてショックを受けてたなあ」
「そうか。それにしても、信頼されてる先生じゃないと、そういうことは話してくれないだろ。すごいよ」
西条は室見の名前を出さずに、何か悩んでいることはないか、と藤原に切り出したという。まだ一学期の終わりだというのに、生徒が悩みをあっさりと打ち明けるほどに信頼を得ているのは、さすがと思う。誰にでも真似できることではない。
「それより、室見には気をつけろよ。郁」
西条は郁の頭をぽんと撫でて笑った。室見の名前が出て少し身構える。
「あいつ、ちょっと本気だろ。あんまり刺激しない方がいいと思ってたんだけど、思い詰めすぎてもまずいと思って牽制しといたんだが……」
「あ、ああ……牽制……。そういうものなのか……。ごめん、こういうときどうすればいいのか、さっぱりわからなくて……」
なんだか、西条との教師としての対処能力の差を感じて落ち込んでしまう。西条は苦笑した。
「俺だって何が正解かわからないから、手探りで動いてるよ。自分の行動が吉とでるか凶と出るか、恐々してる。室見については、今後も注意した方がいいとは思うな」
西条の忠告に、郁は素直に頷いた。
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