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「……?」
昼食後の理科の授業を問題なく終えて、理科準備室で実験で使った器材やプリントを片付けているときに郁は身体の異変に気づいた。
異様に身体が火照っていて、でも寒気がする。額から汗が吹き出し、拭っても拭っても滴り落ちる。胃の内容物がせりあがってくるような気持ち悪さも一瞬あって、実験台に手を付けてじっとして耐える。やがて膝が震えだし、立っていることができなくなって実験台に凭れて蹲った。苦しくて喘ぐように呼吸する。
「先生……どうしたの?」
片付けを手伝いに来た生徒が一人、準備室に入って来たのが見えた。酩酊しているような頭で瞬きをしてそちらを見る。眼鏡を掛けた、小柄で真面目な……それは今、最も同じ場に居てはいけない相手だった。
「入ってくるな!」
「大……丈夫……?」
珍しく大きな声で怒鳴られて、その生徒はびくりと肩を震わせた。しかしそれは一瞬で、指示を無視して理科室と理科準備室の間の扉を後ろ手に閉めると、何かに吸い寄せられるようにこちらに近づいてくる。
「先生、具合……悪いの……?」
「あ……っ?!」
声変わりしたての低い声を聞いただけで、ゾクリと肌があわたつ。触れられた肩から全身に、電流のように甘い痺れが走った。純粋に気遣ってかけられた声に、差しのべられた手に、どうしようもなく欲情する。それは欲情としか言いようのない浅ましい感覚だった。
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