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「みんなにも許可した覚えはないよ」
「じゃあさ、俺だけ特別に許可してよ」
「だめだ。ちゃんと先生と呼びなさい」
「でもさ、俺は郁ちゃんの運命の番なんだし」
室見は大真面目な顔で郁を見つめている。
「なんで……そう思うんだ」
「なんでって、だって……。フェロモンなのかな……郁ちゃんのそばにいると空気が震えて全身鳥肌たったりするし、それに、郁ちゃんがいい匂いするとき、強烈に、その……。したいって思うから」
「ばか、先生に向かって何いってる……」
フェロモン、いい匂い、と言われて郁は血の気が引く思いだった。毎日抑制剤を服用しているし、月に一度のヒート期間中は毎日フェロモンが漏れていないかチェッカーを使って測定をし、数値が少しでも高ければ追加の抑制剤を飲んだり、抑制効果のある軟膏を塗るなどして対策している。今までそのやり方でフェロモンの漏れを指摘されたことなどなかったが、室見には漏れていることがわかると言うのだろうか。もしも室見にわかってしまうとなると、自分は教師としてやっていけないのではないか。内心ショックを受けながら、そんな心境が室見に気づかれないようにと郁は平然を装う。
「郁ちゃんだって、感じてるでしょ? 俺のこと。最初に自己紹介で目があっただけで、あっ、てなったじゃん」
「室見。とにかく、郁ちゃんはだめだ。ちゃんと先生と呼びなさい。あと、先生と話すときは敬語を使うこと」
「えー、なんだよ……」
不満顔の室見をぎろりと一瞥して、それ以上の話を遮った。しかし室見は、「全然怖くない……。ですし……」と呟いてさっと頬を赤くして俯いた。
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