真夜中の病棟で

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僕は、女の子の後を追って、病棟の廊下を静かに歩いていった。 こんなに長い廊下だったっけ? そもそも、僕の病室はフロアの端の方だったはず。ナースステーションと反対に進めば、廊下はすぐに行き止まりで、そこには、デイルームの入り口があるはすだ。 デイルームには、消灯前なら、病棟のどの病室の患者もはいることができる。 そして、そこの窓からは、遠くの景色も見える。 遠くの花火大会の花火が見えたこともあった。 花火の光は、まるで命のよう。 あるいは、夕焼けの空に投げ上げたボールのように、空の中にすうっと消えて行った。 そう言えば、あの花火大会の日、夜遅くまで、先生を呼び出す放送が、病棟の廊下から聞こえていたっけ。 そんな花火大会の日に限らず、デイルームで過ごすことは度々だった。 なにしろ、病室のすぐ近くにあったのだから。 でも、今日は、デイルームの入り口まで、ずいぶんと長く感じられる。 しかも…… 入り口をはいってデイルームにはいったはずが、そこは…… そこは、庭だった。 僕の病棟は5階だったはずだ。 いったい、どういうことだ? 真夜中に別世界の庭にはいってしまうなんて、昔読んだファンタジー小説のようだ。たしか、『トムは真夜中の庭で』というタイトルだったような気がする。でも、あれの庭への入り口は、病棟なんかじゃないし、ましてや、5階でもない。 5階の病棟から庭へ直行なんて、わけがわからない。
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