真夜中の病棟で

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不思議に思ったとき、少し前を歩いていたさやちゃんが、振り向いて、その不思議な公園の中の鉄棒の隅にかけられている布でできたピンクのバッグの方を指さした。 ああ。あれは、さやちゃんのバッグだ。いつも、お菓子や、ジュースのペットボトルがはいっていたあのバッグ。 首から下げていることが多かったけれど、あのとき、僕が投げたボールを打って、大当たりしたとき、たしか、さやちゃんは、バッグを鉄棒の隅にかけていたんだ。 それで、打ったボールの行方を捜しているうちに、バッグのことを忘れてしまって、それで失くしてしまったあのバッグ。 なあんだ。ちゃんと、ここにあったんじゃないか。 僕は、サンダル履きのまま、鉄棒のところまで歩いて行って、さやちゃんのバッグを鉄棒からはずした。 ああ。これは、駄菓子屋さんで買ったドロップ。 そのドロップの缶を見たら、ついこの間買ったばかりのように思える。 夕日の色のドロップを食べたら、夕日の国まで飛んでいけそう。星色のドロップを空に投げたら、お星さままで飛んで行きそう。 さやちゃんがそう、言っていたのが、つい、この間のことのようだ。 僕が、ドロップの缶を開けると、さやちゃんもその中をのぞき込むようにしていた。 缶を逆さにしてみると、ドロップがふたつ。 夕日の色のドロップと星色のドロップだ。 さやちゃんは、僕の手のひらの上から、すぐに、夕日の色のドロップをとって、それから、それを、自分の口の中に入れた。 そして、夕焼けの空の方を向くと、うれしそうにスキップを始めた。 スキップ、スキップ、スキップ……
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