<第二話>

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「はぁ?蘭堂アリシア?」  幸児がその名前を出した瞬間、幸児が所属する文芸部の部長は露骨に顔を歪めた。 「不良チームのリーダーなのは知ってるッス!でも俺どーしても蘭堂さんに会いたいんス!」  嫌な顔をされることなど百も承知だ。なんせこの御花中を仕切る不良チーム“蒼蓮華”の当代トップである。しかしどうしても幸児はアリシアに会いたかった。会わなければいけない訳があるのだ。  アリシアが“鬼組”のリーダーであるカツアキを一撃ノックアウトしてから一夜明け。幸次は決意したことがある。アリシアの隣にあれるくらい強い男になってやる、ということだ。単純と言いたければ言え、恋の魔力が恐ろしいのは何も女の子に限ったことではない。  この近隣のアンダーグラウンドなチームには暗黙の掟がある。リーダー同士のタイマンなどのチーム抗争で負けたチームは、勝ったチームの傘下に下るということだ。つまり実質昨日のタイマンで、カツアキを筆頭にした“鬼組”はアリシアの“蒼蓮華”に吸収されたことになるのである。  とはいえそれは暗黙の掟、であって法律ではない。アリシアの、というか女の下につくのを嫌がる男は少なくない筈だった。カツアキへの忠誠心が低いものは長いものに巻かれるにせよ、そうでないものはチームを抜けて出て行くとみて間違いあるまい。残念ながら、タイマンで決着がつけばはい終了、ではないのだ。  勿論幸児はといえば前者であり、嫌々カツアキのパシリになっていただけの人間である。蒼蓮華に鞍替えすることはむしろ大歓迎なのだった。そして、鞍替えするならするで、ちゃんとチームの一員として貢献したい気持ちは当然あるのである。それが一目惚れした少女の役に立てるのならば尚更にだ。
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