<第一話>

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--あああ…やっぱりあんな挑戦状じゃ駄目だったんだよ相手来るわけないッスよ…!  幸児は頭を抱えた。カツアキが書いた“挑戦状”とやらの文面は自分も目を通している。小学校から勉強と無縁だったであろうカツアキの文字は、はっきり言ってカオスだった。辛うじて読めるが、“辛うじて”がつくくらいには汚い。あとは誤字脱字が酷い。三丁目廃材置き場、を三丁目灰ざいおき馬と書くのはさすがにどうかと思う。伝わらなかったらどう考えたって自業自得だ。  四十分遅刻したとはいえ二十分健気に相手を待つ忍耐力があるならば、次は是非とも自分の手紙を読み返して他人のアドバイスを聴く我慢強さを持って欲しいものである。 --これで相手来なかったら絶対リーダーの不機嫌マックスだし…。また奢らされんの嫌なんだけど…今月貯金下ろしたばっかなのに…!  びくびくしながらカツアキを見る。カツアキのみならず、周りを取り囲む不良達(総じてカツアキの取り巻きだ)もじりじりと不機嫌オーラを募らせている。これはもう駄目かもしれない、と幸児は思った。まだ自分に八つ当たりが向いていないのが奇跡だった。  逃げられるものなら逃げてしまいたい。けれど自分にはそれが出来るだけの足も度胸もないのだ。昔テレビで見たようなヒーローなら、こんな不良達などあっさり蹴散らして、不良の女とリア充かまして立ち去るくらいはするだろうに。  幸児が諦めの境地にいた、その時だった。
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