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ボクはすっかり、困ってしまった。
「先輩、落ち着いてくださいよ!ウワサは分かりますが、大切なポイントを見落としてますって!浜永部長はタバコ吸わないんですよ!」
「えっ?」
高木先輩の目が点になった。
「荒波!なんや、さっきの話は?」
そう言って、荒波先輩を睨みつける。
「おいおい、よしてくれよ。オレはウワサ話を伝えたまでだ」
荒波先輩が迷惑そうな顔で答える。
「じゃあ、一体誰やねんな?すみれちゃんの隠し男は!」
高木先輩が悲しげな表情で訴える。
その顔は情けないほどに締まりがなくなっていた。
興奮したせいもあって、かなりお酒がまわっているようだった。
気持ちを取り直して、ボクは言った。
「高木さん、もう一度、最初から考えてみましょうよ。ウチの会社の男性社員は122名ですよね。その中で“喫煙者”は51名居ます。その中で・・・・」
「そうやな、高杉に栗原、それに上野!あの辺が怪しいと思うんや。アイツらオンナ好きやし、べしゃりもたつからな・・・・」
ボク達はもう一度、順序立てて該当者を絞り込んでいったが、結局、終電までに有力な手がかりは得られなかった。
そして、飲み話の常で、次の日の朝にはタスポの疑惑は皆から忘れ去られていた。
そんな飲み会のことを思い出したのは、今年の8月のことだ。
なんと、荒波先輩と楠木さんが電撃入籍したのだ。
本人達は多くを語らないが、そこそこの付き合いを経たゴールインのようだった。
思えばあの夜、荒波先輩はタスポを持っていなかった。
やはり、カギはタスポにあったのだ。
だが、あんな簡単なカモフラージュを見抜けなかったのだから、ボクはホームズはおろか、ワトソンにもなれそうにない。
こうして、ボクの淡い想いは煙のように消えたが、今はお二人に幸せになってもらいたいと思っている。
(終わり)
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