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「ほんまや、瀬戸は話がおもろうないからな。抱きたいオンナもおらんような野心のないヤツとは、ワシはやってかれへんわ」
高木先輩にも突き放され、ボクは思わず黙り込んだ。
気まずい沈黙の中、不意に荒波先輩が切り出す。
「高木、タスポ持ってるか?」
「おう、タバコか?これで良かったら」
高木先輩がポケットからタバコを差し出す。
「すまん、借りとく。今度、箱で返すよ」
二人が揃ってタバコに火を点けるのを、ボクはボーッと見てた。
すると、独りでに言葉が漏れたんだ。
「・・・タスポ」
「タスポがどうしたんや?」
すかさず、高木先輩が突っ込んでくる。
「デスクの楠木さん、タスポ持ってますよね?」
ボクは言った。
「スミレちゃんか、確かに持ってるな。ワシも借りたことあるわ」
楠木スミレさんは営業課のデスクで、ボクより4つ年上だった。
決して美人では無いけど、人当たりの良さと笑顔が魅力で男性ファンも多かった。
ボクは彼女が社員にタスポを貸すのを何度か目撃していた。
「でも、楠木さん、吸わないんですよ」
「ん?そうか、彼氏用やろ?」
高木先輩が美味しそうに煙を吐き出しながら言う。
「いえ、“彼氏はいない”って言ってましたよ」
ボクは反論した。そんなことは既に確認済みだ。
「いやいや、それはオマエに変な詮索されんのが嫌やったから、適当に答えただけちゃうか?」
先輩の突っ込みにボクはぎくりとした。
たしか昨年の忘年会だった。
たまたま向いの席になった楠木さんに酔った勢いで絡んでしまったのだ。
“彼氏はいない”という楠木さんに、何度も同じ質問をして困らせたっけ。
正直に言うと、楠木さんのことが少し好きだった・・・。
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