1

2/15
前へ
/15ページ
次へ
亮太の赤い車がうるさい音をたてて駐車場に入ってきたので、雑誌を棚に戻してコンビニを出た。 「おう、待たせたな」 「構わんよ。はいこれ」 さっき買い物を済ませた袋から、缶コーヒーを1本取り出す。「運転代」 「おう、サンキュー」 「それじゃ、行こうか」 車に乗り込んだ。 駐車場を左に曲がって近くの高速インターを目指す。 「派手な車だな」 「かっこいいだろ」 「内装は質素だな」 「内装はどうでもいい」 「窓開けるのに手でハンドル回すなんて、今どき古すぎるだろ」 「ヴィンテージカーと言ってくれ」 三車線の国道に出てしばらく走ると、目指すインターの名前と距離が書かれた看板が早速現れた。 「しかし、美咲ちゃんは何でこんな時期に冠婚葬祭するかね。暑くてたまんねえよ」 「呼ばれちまったもんだから、しかたないよ」 そう言う自分も首もとが暑苦しくて、結び目にぐいと指を突っ込んでネクタイを緩めた。 高速の料金所を抜けて車が加速しだすと、エンジン音は更にやかましくなった。 「なにその本」 「コンビニで買い物してるとき目に留まって、つい買ってしまった」 「車のなかで、本読んで酔わないの?」 「全然酔わない」 「さすが、海の家の息子だな」 「漁師の息子だったらまだしも、海の家は関係ないでしょ。それに、もう海の家は閉めちゃったから、やってないよ」 「まじで!おれたちの青春の海の家が無くなっちまったのか」 「おれには、親に手伝わされた嫌な思い出しかないよ」 「なに言ってんだよ。お前、美咲ちゃんと仲良く焼きそば焼いてたじゃねえか」 美咲は小学校を卒業して中学生になる春休みに、東京に引っ越していった。もともと、その2年ぐらい前からお父さんの転勤が決まっていたのだが、一人っ子の美咲が小学校を卒業するまでの間、お父さんは単身赴任をしていた。 土曜日の夕方に、眼鏡に白シャツにネクタイと、夏の海に全くもってマッチしない出で立ちで、美咲のお父さんが海の家に美咲を迎えに来る。 笑顔がとても優しい美咲父だった。 「今思えば、おれと美咲が焼いた焼きそばを客に売るのって、衛生法上問題なかったのかな」 「そんなこと、どうでもいいよ」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加