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亮太の赤い車がうるさい音をたてて駐車場に入ってきたので、雑誌を棚に戻してコンビニを出た。
「おう、待たせたな」
「構わんよ。はいこれ」
さっき買い物を済ませた袋から、缶コーヒーを1本取り出す。「運転代」
「おう、サンキュー」
「それじゃ、行こうか」
車に乗り込んだ。
駐車場を左に曲がって近くの高速インターを目指す。
「派手な車だな」
「かっこいいだろ」
「内装は質素だな」
「内装はどうでもいい」
「窓開けるのに手でハンドル回すなんて、今どき古すぎるだろ」
「ヴィンテージカーと言ってくれ」
三車線の国道に出てしばらく走ると、目指すインターの名前と距離が書かれた看板が早速現れた。
「しかし、美咲ちゃんは何でこんな時期に冠婚葬祭するかね。暑くてたまんねえよ」
「呼ばれちまったもんだから、しかたないよ」
そう言う自分も首もとが暑苦しくて、結び目にぐいと指を突っ込んでネクタイを緩めた。
高速の料金所を抜けて車が加速しだすと、エンジン音は更にやかましくなった。
「なにその本」
「コンビニで買い物してるとき目に留まって、つい買ってしまった」
「車のなかで、本読んで酔わないの?」
「全然酔わない」
「さすが、海の家の息子だな」
「漁師の息子だったらまだしも、海の家は関係ないでしょ。それに、もう海の家は閉めちゃったから、やってないよ」
「まじで!おれたちの青春の海の家が無くなっちまったのか」
「おれには、親に手伝わされた嫌な思い出しかないよ」
「なに言ってんだよ。お前、美咲ちゃんと仲良く焼きそば焼いてたじゃねえか」
美咲は小学校を卒業して中学生になる春休みに、東京に引っ越していった。もともと、その2年ぐらい前からお父さんの転勤が決まっていたのだが、一人っ子の美咲が小学校を卒業するまでの間、お父さんは単身赴任をしていた。
土曜日の夕方に、眼鏡に白シャツにネクタイと、夏の海に全くもってマッチしない出で立ちで、美咲のお父さんが海の家に美咲を迎えに来る。
笑顔がとても優しい美咲父だった。
「今思えば、おれと美咲が焼いた焼きそばを客に売るのって、衛生法上問題なかったのかな」
「そんなこと、どうでもいいよ」
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