1人が本棚に入れています
本棚に追加
「美咲、海で遊ばないのか」
「水着持ってこなかったから」
「東京から久しぶりに帰って来たのに、もったいない」
「ううん、こうして海を見ているだけでじゅうぶんよ」
海の家のさびれたベンチに腰掛けて、美咲は海を見つめてた。海は照り着く夏の日差しを反射して、ぎらぎらと輝きを散らしていた。
東京に引っ越して、美咲の雰囲気が変わった気がした。なぜだろう。
見慣れない白のワンピースから伸びている、すらりと長くて白い手足のせいなんだと、僕はすでに分かっている。
照りつける夏の陽射しがピークを過ぎた頃に、美咲は足を少し浸す程度に海に入った。
キャッキャとはしゃいで細い足を蹴りあげると、海が弾けて、しぶきがキラキラと輝いた。
よそよそしかった美咲が昔に戻って、少しほっとした。
このとき、僕はすでに美咲に恋をしていたのだが、このときの僕は胸を詰まらせる異質な感情をどう扱っていいか分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!