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しばらく、僕らは何も話さずゆらゆらと揺れていたが何も聞かない僕に痺れを切らしたのか彼女がポツリポツリと話し始めた。 仕事が上手くいかないこと。御局様からの小言が多いこと。上司からのセクハラが酷いこと。住んでるマンションの隣の部屋の人が毎晩うるさくて眠れないこと。 忙しい事に託けて会わない彼氏のことも。 ふと顔を上げる彼女。 月光を受けるその白い顔には涙が伝った跡があった。 「ご、ごめn「今日は、月が綺麗ね」……え?」 僕が謝るのに被せて彼女が何かを言う。 「今日は月が綺麗ね」 月が綺麗ね……夏目漱石が英語教師だった頃I love you を訳す際、日本人が愛を告げる時は月が綺麗ですねと言うもんだ。と言ったらしいがそれを用いたのか? 文学部の出の彼女にこういう意味の言葉があると聞いて自分でも少し調べたことがあった。調べた時に出た言葉を 「月はずっと前から綺麗だったよ」 僕は彼女の目を見てハッキリと告げる。 この言葉の意味は僕は君が好きになる前から君のことが好きだったよ……って意味だったと思う。 「そう……」 彼女は再び俯いた。 月の光を受け白かった顔にも影が落ちる。 彼女の顔をよく見てみれば唇は乾燥し、頬はどこか痩け、目の下にはクマが見て取れた。 「ごめんな……」 彼女をここまで追い詰めてしまったのも僕にも原因がある。これからは彼女のことを支えて行くことを覚悟した。
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