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厚也が今日のアルバイトでかいた汗を流している間に、『川住組』がどういう状況なのかを説明しておこう。
一時は構成員500名を超えていた『川住組』だが、先代組長である厚也の父、厚守が死んでからというもの、中心人物を失った組織は崩壊した。
抱えていた支部のいくつかを任せていた幹部たちが次々と勢力を強め、事務所には新たな看板がかかった。構成員たちもおのずとそれぞれの派閥へと分かれていった。
みな名前こそ『川住組』の一派を名乗ってはいるが、誰も彼もが勝手に首領を名乗り始め、派閥同士の抗争も勃発するようになった。
今や、『川住組』本家、すなわちこの家の看板の下にいるのは厚也と葉月の二人だけである。
厚也の考えは逡巡していた。
今抗争を行っている派閥の首領たちは、皆厚也の知り合いだ。子供だったころに遊んでもらった記憶もある。
そんな彼らが、血で血を洗う抗争を行っているというのが、たまらなく苦しかった。
かといって、自分が出て行けば抗争は止むかもしれないが生活が立ち行かなくなる。
葉月の言うとおり、毛の先まで「極道」になってしまったら働き口などそう見つかるものではない。
「若、湯加減はいかがですか」
「うん、大丈夫。いい感じだよ」
「お背中お流ししますか」
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