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「い、いやッ! 遠慮しておくッ!」
「そうですか……」
なんでちょっと残念そうなんだ、と湯船の中でごぼごぼと音を立てる厚也。
葉月は厚也よりも5歳ほど歳上である。葉月の父は、厚也の父の弟分として『川住組』を長く支えてくれた男であった。
だから家族同士の付き合いも多く、気付けば厚也は葉月と一緒にいた。
完全に組がバラバラになってしまった今でも、葉月は組のために動いてくれている。
「……若、今日は按冶派と元堵派がドンパチやって警察にしょっぴかれたそうです」
「そう」
「若は何とも思わないので?」
「思うよ、そりゃあね。按冶さんも元堵さんも、とってもいい人だったし」
ヤクザだけどね、と厚也は心の中で付け加えた。
湯船から両手で湯を掬い上げ、顔にばしゃっとかける。
「若、どうすればこんな無益な殺生が無くなるんですかね」
「……葉月さんはもうその答えを知ってるんだよね」
葉月は答えなかった。
厚也は今まで聞きたかったことを葉月に聞くチャンスだと思った。
「葉月さんはどうして組の内部抗争を止めたいわけ?」
「それは、親父さんの遺した大事な組だからです。父は親父さんに大層世話になったので――――」
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