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「でも、それは葉月さんのお父さんの話でしょ。葉月さんは関係ないじゃんか」
「…………好きだから、ですかね」
「『川住組』が?」
「それもあります」
「だったら…………」
おかしい。
自分が葉月さんを問い詰めるはずだったのに、逆に自分が追い詰められている気がする。
厚也は湯船の中で、心臓がキーンと冷たく凍っていくような感触がした。
「……だったら、なんで俺に『組を継げ』って言わないの?」
「若はカタギなんですよ。ヤクザの世界に足を踏み入れちゃいけない。まだ日向を歩いていられる、真っ当な生き方ができる。日陰を歩くのは、私一人で十分です」
厚也は葉月の言葉に激怒し、湯船から飛び出した。
浴室の扉をがばっと開いた厚也は、洗面台の前でタオルを用意していた葉月の両肩を強く掴んだ。
「なんでそんなこと言うんですか、葉月さん!」
「わ、若ッ!?」
「どうしてそうやっていつも組のことばっかりなんですか! こんなに綺麗なんだから、もっと自分の幸せのこととか、考えることあるでしょう!」
「わ、私の幸せは、組が存続することで……」
「じゃあ俺が葉月さんを幸せにします!」
「ふぇっ!?」
「俺が組長になって、『川住組』をまとめてみせますッ!」
葉月は何も答えなかった。
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