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「俺、浮気はしないよ」と彼はよく口にする。
浮気はしない。
きっとそうだろう。
付き合い始めた頃は、なんて誠実な人だろうと思っていた。同じ高校だったこともあり、どんな人かは知っているつもりで、それなりに信頼もしていた。
あまり話したことはないけれど、彼は私の事をずっと好きだったらしい。
高校を卒業し、それぞれ別々の大学に入る。
少し経ってから、何度か2人で遊んだ。
彼は昔から、誰に言わせても善い人だ。
優しくて、話も面白く、学校でもそれなりに人気があったし、違うクラスだった私も、彼の事を好ましく思っていた。
そんな彼から告白されて、私たちは付き合った。
私の返事を聞いた瞬間の、
彼の表情は、
決して忘れない。
喜びがこみあげて赤くなる様が、
やけにゆっくりと感じ、とても美しかった。
この思い出だけで、私の心は辛うじて生きている。
彼は、浮気はしない。
でもそれは私の為ではない、自分の美学の為だ。
だからといって、彼は誠実なんかじゃない。
現に今も、自分に好意があると知りながら、
大学で同じ授業をとっている女の子からの誘いに、いかにも友達然として赴いている。
好意の眼差しを感じる気持ちよさと、
友達の姿勢を崩さない自らの清らかさ。
どちらも手に入れられる時間が、
彼はきっと、楽しくて仕方がないのだ。
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