湿気

6/6
前へ
/6ページ
次へ
"もうすぐ帰る"と連絡が入り、 私はベランダへ向かう。 少し目を凝らせば、遠くから歩いてくる彼がそろそろみえるだろう。 わざと私を悲しませた後は、決まってコンビニでアイスを買ってくる。今日もきっとそうだ。 私は「ありがとう」という。嬉しそうに。 彼の罪悪感を消すために、気にもしてないふりをする。彼が自分を善人だと、思い続けられる様に。 あの建物の角から姿がみえる。 あとは真っ直ぐに、私に気付かずに、歩いてくる。 この瞬間だけは、私は彼を見つめていられる。 空は少しどんよりとしている。 青いシーツは未だ重たげに、風にひらめいている。 きっと乾いても、おひさまの匂いはしない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加