就職初年度…春の事

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「今から東京!関西地区!部屋の鍵を 渡しまーす!」 その声で私は我に返った。 OsakaFactoryの指導員の男性社員が 標準語で言ってるけど、どうしても関西弁なイントネーションだ。 不意にシャンデリアのキラキラから、ふと思い出し過去へ行ってしまった私。 ちゃんと聞いてなかった。 「……なんだって?」 スグ近くにいた同期のひとりに聞く。 バスの中で仲良くなった空手部に入団が決まってる『阿部広樹』。 天パの髪をリーゼントに仕上げてるのに、クリクリぱっちり目の可愛い男子だ。 身長はそんなに高くないけど 空手で鍛えられたってわかるくらい しっかりした体躯なのはなんとなく スーツ着ていてもわかる。 「ん?部屋の鍵を今から配るんだって んでね…」 阿部くんはちゃんと教えてくれた。 それは…… ・部屋の鍵を名前呼ばれたら受け取る ・荷物とりあえず置き、身だしなみ整えて 四時半には2階『 鳳凰の間』 舞台のある大きな部屋へ集合 ーーー言うことだ。 この説明聞いてる間に、東京地区、関西地区 それぞれの指導員達が分担して、新人達の名を呼ぶ。 男子は二人から三人のグループで。 女子は一人づつで。 「いいなぁ〜女の子は一人一部屋だってよ!」 ちょっとぽっちゃり系のメガネの男子 『田中康治』がうらやましそうに言う。 「ヒビキちゃん〜ずるいよォ」 なんて言うけど、その前に 「田中くん!ちょいまちっ! 私の名前 『ヒビキ』じゃなくて『きょう』だから」 こう名前の指摘した。 そんな時 「山口 (ヒビキ)さん!」 呼び出す方も間違ってる。 東京地区の指導員じゃないから仕方ないと思いつつ、訂正してもらわなきゃなんて身構えた時、 「グッチィ!呼ばれたよ?」 竹田優子…ユッコが自室の鍵を手にして 大声で私を呼んだ。 まだまだ高校生気分が抜けきらない、 社会人なりたての集団は、広いエトランスホールの一角でざわざわしてる。 私は人の並を掻き分けながらユッコの方へ歩いていく。 その先には指導員達が待っている。 女子は一人一部屋。 ちょっとワクワクしながら、鍵を受け取った。 ついでに、 「すみません!私の名前……ヒビキじゃなくてキョウなんです ーーー名簿にそう書いてません?」 そう指導員に伝えたらえっ!と驚いて 「ごめんね!漢字しか見てなかった」 なんてあっさり謝れた。 まぁ、確かに普通に読んだらヒビキだもん。 慣れたけど。 命名する時に、『子』を消さなきゃ 普通にある女子の名前だった私の名前。 恨むぞ……親父様。
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